7月24日、暗号資産市場は全体で軟調に推移するなか、DeFi(分散型金融)セクターだけが際立って買われた。ビットコイン(BTC)は6万4,961ドルと24時間で1.4%下落し、イーサリアム(ETH)も1,871ドルへ3%下げた。市場全体の時価総額は2.3兆ドルへ1.3%縮小している。にもかかわらず、DeFiセクターの時価総額は634億ドルへ24時間で9.8%上昇した。全面安に逆行するこの一点の強さが、いま市場で最も注目すべき資金の動きだ。

これは単なる短期の連想買いではない。AaveやUniswapが手数料収益をトークンの買い戻しへ回す『収益還元型』の設計へ移行し、価格ではなく財務指標で評価され始めたことが背景にある。同時に、これまで物色の中心だったAIセクターは置き去りになっている。資金はAIからDeFiへ回転している――トレーダーが今日押さえるべきはこの一点だ。

いま相場で何が起きているか

7月24日時点の主要指標を数字で押さえる。BTCは6万4,961ドル(-1.4%)、24時間出来高は237億ドル。ETHは1,871ドル(-3%)、出来高100.6億ドル。市場全体の時価総額は2.3兆ドル(-1.3%)、総出来高は589億ドルだった。BTCドミナンスは56.6%、ETHドミナンスは9.82%。市場心理を示す恐怖・強欲指数は前日の31から28へ低下し、警戒感が一段強まっている。

この弱気地合いのなかで、DeFiセクター時価総額は634億ドルへ24時間で9.8%上昇した。DeFiの出来高は33.1億ドル、セクターの世界シェアは4.5%。銘柄別では、Injective(INJ)が2.97%高、World Liberty Financial(WLFI)が11.10%高となるなど、DeFi周辺のトークンが騰落率上位に並んだ。一方で下落率上位はPi(PI)が-9.32%、Lighter(LIT)が-6.58%、SPX6900(SPX)が-6.27%と、DeFi以外の銘柄に売りが集中した。Uniswap(UNI)は3.82ドルで、24時間レンジは3.74〜3.88ドルだった。

つまり同じ暗号資産市場のなかで、DeFiとそれ以外で明確に資金の向きが分かれている。全体が下げるなかで特定セクターだけが二桁近く上げる日は、地合いの転換点になりやすく、資金がどこを『次の物語』と見なしているかを映す。

何がこの動きを作ったか

今回の起点はプロダクトのローンチではなく、トークノミクスの構造変化だ。Aaveは6月27日に『Aavenomics 3.0』を起動した。これはプロトコルが得た収益――年間およそ4.02億ドルと見積もられる――を全額AAVEの買い戻しへ回す設計で、従来の『提案ごとに投票して承認する』裁量的な買い戻しを、ガバナンスの都度承認なしで走り続ける自動バイバック・エンジンへ置き換えた。自動購入によって流通するAAVEは1日あたり約292枚ずつ市場から吸い上げられる計算になる。

この流れはAaveにとどまらない。Uniswap、Aave、Ethenaといった主要プロトコルが手数料生成を牽引し、DeFi全体の手数料はこの半年で76%増加、手数料収益は約6億ドル規模まで回復した。ミーム性や物語の派手さではなく、収益・手数料という『伝統的な金融指標』でトークンを評価しようという転換が起きており、Ether.fiなど他プロトコルも収益ベースの戦略を採り始めている。買い戻しは、機関投資家になじみのある指標へDeFiを寄せていく動きの象徴だ。

ここで重要なのは、DeFiの上昇が『何ができるか』という機能面ではなく、『なぜ資金が反応したか』という需給面で説明できる点だ。収益が継続的なトークン買い需要へ変換される仕組みが可視化されたことで、値動きに構造的な下支えが生まれた。

ファンダメンタルをどう見るか

連想買いか実質的な変化かを見分ける鍵は、収益と利用が伴っているかだ。Aaveは過去1年でおよそ9億ドルの収益を生み、6月30日にはイーサリアム上の新規ウォレット作成が1日で1,806件と2021年以来最多を記録した。ネットワークの成長と収益という実データが、今回の物色の裏付けになっている。

ただし楽観は禁物だ。DeFi全体のTVL(預かり資産)は年初来で約40%縮小し、1月の約1,150億ドルから6月末には約700億ドルまで落ちている。バイバックの原資は継続的な収益であり、収益は利用量に依存する。TVLと手数料収益の回復が続かなければ、買い戻しの下支えも細っていく。今回の9.8%高が一過性の資金回転で終わるか、収益トークノミクスの再評価として定着するかは、今後数週間のTVLと手数料の推移が握っている。

資金はどこへ動いているか

資金フローの向きははっきりしている。DeFi内部では、Curveから約980万CRV、Uniswapから約840万UNIが取引所から引き出された。取引所からの流出は通常、自己保管やステーキングへ資金を移す動き――すなわち短期売却の意図が薄い保有――を示すことが多い。売り圧が乗りやすい取引所在庫が減っている点は、DeFi銘柄の需給を締める方向に働く。

対照的に、AIセクターは資金の受け皿になれていない。AIセクターの時価総額は7月前半で18〜25億ドル圏、AIエージェント区分は約20億ドルにとどまり、DeFiの634億ドルとは規模で大きく差が開いた。7月28〜29日のFOMCを控えたハイベータ(高ボラティリティ)銘柄の手仕舞いに加え、『収益で語れる新しい物語』がDeFiへ移ったことで、AI銘柄は物色の中心から外れている。ステーブルコイン時価総額は3,035億ドル(-0.1%)とほぼ横ばいで、待機資金が大きく減った様子はない。回転先が決まれば動きうる原資は残っている。

過去の類似局面との比較

DeFi主導の物色は今回が初めてではない。2020年の『DeFiサマー』や、ガバナンストークンへの期待が先行した局面では、初動で急騰したのち利用が伴わずに数週間で剥落するパターンが繰り返されてきた。値上がりの理由が『トークン価格の期待』だけだと、買いが一巡すると戻りやすい。

今回の違いは、上昇の説明が収益と買い戻しという需給の数字に置き換わっている点にある。Aaveの1日約292枚の自動買い戻し、半年で76%増という手数料の伸びは、価格期待ではなくキャッシュフローに紐づく。とはいえ、収益トークノミクスもまた利用の減少には勝てない。TVLが年初来40%減という事実は、この物語がまだ需給の追い風だけで支えられている脆さも同時に示している。過去の剥落局面との差は『継続的な収益が出続けるか』に集約される。

注目銘柄と価格水準

動意づきうるのは収益・買い戻しを実装したDeFi中核銘柄だ。UNIは7月24日時点で3.82ドル、直近レンジは3.74〜3.88ドルで、この上下限が短期の意識水準になりやすい。AAVEは6月27日のAavenomics 3.0起動時に94.86ドルまで19%急伸した経緯があり、買い戻しの持続性が語られるたびに需給の話題に上りやすい。INJ(+2.97%)やWLFI(+11.10%)といったDeFi周辺銘柄も、セクター全体の資金流入の恩恵を受けやすい位置にある。

AAVEやUNIは国内の一部取引所でも取り扱いがあり、円建てで購入できる場合がある。ただし取扱状況は各社で変わるため、売買前に各取引所の最新の対応銘柄を確認してほしい。ここで挙げた銘柄は資金流入が観測される対象であって、特定の売買を推奨するものではない。

想定されるシナリオとリスク

上方シナリオは、DeFiの手数料収益とTVLがそろって回復を続け、買い戻しによる需給の締まりが定着する展開だ。この場合、収益トークノミクスがセクターの再評価軸として機能し、AIから移った資金がDeFiに滞留する。恐怖・強欲指数28という慎重な地合いのなかでも、キャッシュフローという分かりやすい物差しを持つ点は、リスクオフ局面での相対的な強さにつながりうる。

下方シナリオは、今回の9.8%高が短期の資金回転にとどまり、TVLの縮小トレンド(年初来約40%減)が続くケースだ。利用が伴わなければ買い戻し原資が細り、連想買い分は速やかに戻りうる。加えて7月28〜29日のFOMCでタカ派的な結果が出れば、DeFiを含むリスク資産全体が売られる。BTCが6万4,000ドル台のサポートを明確に割り込む展開になれば、セクターローテーションの議論以前に市場全体が崩れる点には注意が要る。いずれのシナリオも条件付きであり、現時点で方向を断定できる段階ではない。

まとめ

トレーダーが7月24日に持ち帰るべき点は3つだ。第一に、BTC・ETHが下げ全体が1.3%縮小するなかでDeFiセクターだけが9.8%高と逆行し、資金がAIからDeFiへ回転している。第二に、その原動力はプロダクトではなく、Aavenomics 3.0に代表される収益還元型トークノミクス――年間約4.02億ドルの収益を買い戻しへ回す需給の構造変化だ。第三に、この物語の持続性はTVLと手数料収益の回復にかかっており、年初来40%減のTVLが下げ止まらなければ連想買いは剥落しうる。

収益で語れるセクターへ資金が動く局面は、数字を追うトレーダーにとって整理しやすい。なお編集部はClaude Codeによる自動売買を実運用しており、その検証結果は運用実績ページとニュースレターで公開している。