Web3 AIは「使う」時代へ
Web3とAIの交差点では、これまでの「AIで何ができるか」という議論から、「AIをどの基盤で、どう実行し、どう精算するか」へと焦点が移りつつあります。2026年4月には、0G Labs、Gensyn、Coboが相次いで新しい機能や製品を公開しました。いずれも単なる実験ではなく、分散型インフラ、AIが決済を担う情報市場、そしてAIエージェント向けウォレットという、実運用を見据えた設計が特徴です。
0G Labs:自然言語でアプリを作る分散型AI基盤
0G Labsは、自然言語の指示だけでアプリやAIエージェントを構築できる「0G App」を公開しました。発表によれば、同プロダクトは分散型コンピュート、TEEによる検証、トークン統合、AIエージェントのデプロイを一体化し、Web2の使いやすさとWeb3のインフラを橋渡しする設計です。0G LabsはEVM互換のL1、分散コンピュート、分散ストレージ、データ可用性レイヤーを含むフルスタックのAI基盤を掲げており、Aristotle Mainnet は2025年9月に稼働しています。
注目点は、ここで「AIを作る」こと自体よりも、作ったAIをどこで動かすかが明確に意識されていることです。中央集権型クラウドに依存せず、検証可能性や分散性を前提にした実装は、AIエージェントの運用をWeb3の機能群に接続する狙いがあると読めます。もっとも、これは技術的な方向性の提示であり、実際の利用拡大は開発者体験、処理性能、コスト、そして外部アプリとの接続性に左右されます。
Gensyn Delphi:AIが決済する「情報市場」
Gensynは、AIが結果を決済する分散型情報市場「Delphi」をローンチしました。The Blockによると、Delphiは予測市場ではなく情報市場として設計されており、誰でも市場を作成でき、取引高に応じてクリエイターが手数料を得られます。市場が成立すると、中央管理者に依存せず、AIによってアウトカムが決済され、報酬はUSDCで自動分配される仕組みです。
この動きが示しているのは、Web3 AIの役割が「モデルを提供する」だけではないことです。Delphiは、情報の収集・検証・精算というプロセスを、AIとオンチェーンのルールで回す構想です。従来の予測市場は上場審査や結果判定で中央集権的な判断を挟みやすい一方、Delphiは市場の生成と精算をプロトコル側に寄せようとしています。情報の価値を“結果”ではなく“市場運営”から生み出す発想は、Web3らしい設計として興味深い一方、精度、悪用対策、法規制との整合性は引き続き論点になりそうです。
Cobo:AIエージェントがオンチェーン作業を行うウォレット
Coboは、AIエージェントがオンチェーン作業を実行できる「Cobo Agentic Wallet」を公開しました。対応チェーンはEthereum、Base、Arbitrumを含む80以上で、人間とエージェントの承認プロトコル、モジュール化されたスキルフレームワークを組み合わせ、安全性を担保しながら自動実行を可能にする設計です。
この領域では、ウォレットは単なる資産保管ツールではなく、AIに権限を渡すための実行境界になります。送金、スワップ、ステーキング、ポートフォリオ管理などをAIに委ねる流れはすでに他社でも見られますが、Coboの発表は、その用途が「金融操作の自動化」から「業務フローの代理実行」へ広がっていることを示しています。実務上は、権限の範囲設定、承認ログ、失敗時のロールバック、誤操作防止といった運用設計が重要になります。
3つの発表が示すWeb3 AIの現在地
今回の3社の動きは、それぞれ役割が異なります。0G Labsは計算・検証インフラ、Gensynは市場設計と精算、Coboは実行権限の管理に焦点を当てています。つまり、Web3 AIはもはや「AIトークンがあるかどうか」ではなく、AIが動くための土台をどのレイヤーで組み立てるかという話に進んでいます。
また、The Blockの関連報道では、GeminiやOKX、CoinbaseなどもAIエージェント向けの取引・決済・ウォレット機能を相次いで拡充しています。これは、Web3 AIが一部の実験的テーマではなく、取引所・カストディ・アプリ層まで含めた実装競争に入っていることを補強します。
読者が見るべきポイント
Web3 AIを追う際は、トークン価格よりも先に、次の3点を確認すると全体像をつかみやすくなります。
どのレイヤーを担当しているか
インフラ、アプリ、ウォレット、決済のどこに価値があるのかを切り分ける。権限と検証がどう設計されているか
AIに何を任せ、人間がどこで止めるのか。承認フローは実運用の核心です。実際に使える場面があるか
デモだけでなく、チェーン対応、手数料、外部連携、運用ルールまで見ておく必要があります。
まとめ
Web3 AIは、分散型コンピュートでAIを動かし、AIが市場を決済し、AIエージェントがウォレットを使う段階へ入りつつあります。0G Labs、Gensyn、Coboの発表は、その変化が概念論ではなく、実装の積み上げとして進んでいることを示す事例と言えます。今後は、性能や話題性だけでなく、権限管理・検証性・規制対応を含めた“運用できるかどうか”が評価軸になりそうです。
