NEAR Protocol(NEAR)は、2026年に『AIエージェント時代のSuper-App Layer』として急速にポジションを確立しているLayer 1ブロックチェーンです。Chain Abstraction(チェーン抽象化)、MPC(Multi-Party Computation)、Chain Signatures、User-Owned AI、Confidential Computing、100万TPSを目標とする高速処理など、AIエージェントが大量に活動する経済構造に最適化された機能群が揃っています。創業者のIllia Polosukhin氏はGoogleで Transformer論文の共著者でもあるAI研究者で、NEARの設計思想にはAI研究の知見が深く反映されています。本記事では、NEAR Protocolの仕組み・AI領域での独自性・最新動向・購入方法・リスクまでを体系的に整理します。
NEAR Protocolの基礎知識
NEAR Protocolは、Illia Polosukhin氏とAlexander Skidanov氏が2018年に共同創業したLayer 1ブロックチェーンです。Polosukhin氏は元Googleの研究者で、AI業界で最も引用されている論文のひとつ『Attention Is All You Need』(Transformerアーキテクチャの提唱論文)の共著者です。Transformerは現在のChatGPT・Claude・Gemini等の大規模言語モデルの基盤技術であり、Polosukhin氏はAI領域における『パイオニア研究者』のひとりとして広く知られています。
NEARが他のL1と差別化される要因は複数あります。第1にシャーディング技術(Nightshade)による水平スケーリング、第2に開発者体験の良さ(Rust/JavaScriptで開発可能、Human-readableアカウント名)、第3に2026年以降の主軸となるChain Abstractionによる『チェーン横断UX』、第4にAIエージェントへの最適化です。これらが組み合わさることで、AIエージェントが大量に活動する経済構造に最適化されたL1という独自ポジションを得ています。
NEARは取引手数料・ステーキング・ガバナンス・スマートコントラクトのストレージ手数料に使われるネイティブトークンで、ステーキング報酬は年率約5〜8%程度で推移しています。バリデータネットワークは分散度合いが高く、長期保有・委任ステーキングとの相性がよい設計です。
Chain Abstraction:35+チェーン横断のSuper-App
NEAR Protocolの2026年における最大の差別化要因が『Chain Abstraction(チェーン抽象化)』です。これは『ユーザーがどのチェーンを使っているかを意識せず、すべてのブロックチェーンを一つのアカウントで操作できる』ための仕組みです。
仕組み:MPCとChain Signatures
Chain Abstractionの中核技術は MPC(Multi-Party Computation)と Chain Signaturesです。MPCはNEARバリデータネットワークが共同で秘密鍵を分散管理する技術で、これによりNEARアカウントが他のブロックチェーン(Bitcoin・Ethereum・Solana等)の鍵を間接的に管理できます。Chain Signaturesは、NEARスマートコントラクトが他チェーンの取引に署名する仕組みで、ブリッジを使わずに他チェーンとの相互運用を実現します。
単一のNEARアカウントが Bitcoin・Ethereum・Solana・Polygon・Arbitrum・Optimism・Baseなど25以上のブロックチェーンで取引署名でき、ユーザーは各チェーンのウォレット・シードフレーズを別々に管理する必要がなくなります。これは『ブロックチェーンのUXを根本から変える』技術として、業界全体で注目されています。
Near.com Super-App
Chain AbstractionのフロントエンドとなるのがNear.com Super-Appです。メールアドレスかFaceID(Apple Face IDの活用)でアカウント作成でき、シードフレーズの記憶・管理は不要です。これにより、Web2と変わらないオンボーディング体験で35+チェーンを横断的に使える環境が実現されます。AIエージェントもNear.com経由でアカウント・鍵管理を行うことで、シンプルにマルチチェーン操作を実装できます。
NEAR AI:User-Owned AIの実装
NEAR Protocolの2026年におけるもう一つの主軸が『NEAR AI』です。これは『User-Owned AI(ユーザー所有AI)』というNEAR独自の哲学を反映したAIエージェント基盤です。
User-Owned AIの思想
中央集権AI(ChatGPT・Claude・Gemini)では、ユーザーが入力したデータ・履歴・判断ログは事業者側に蓄積され、ユーザーは事業者の都合(料金変更・規約変更・サービス停止)に依存します。User-Owned AIはこの構造を逆転させ、AIエージェントが操作するデータ・鍵・判断履歴をユーザー自身がブロックチェーン上で保有・管理する設計です。
具体的には、AIエージェントの『脳』(モデル)は中央集権または分散ネットワーク上で稼働しますが、その『手足』(資産・鍵・データ)はユーザーのNEARアカウントが完全に保有します。事業者がサービスを停止しても、ユーザーは自分のアカウント・データを失わない構造です。
Confidential Computing
NEAR AIの実装では Confidential Computing(信頼実行環境、TEE)が活用されています。AIエージェントが秘密情報(API鍵・残高・取引戦略・個人情報)を扱う際、TEE内で処理することで、中央集権事業者であっても内容を覗き見できない構造が確保されます。
金融タスクの自動執行
User-Owned AIの典型的なユースケースが金融タスクです。AIエージェントがユーザーの代理として、価格監視・ポートフォリオリバランス・利益確定・税務最適化・他チェーンへの資産移動などを実行します。Chain Abstractionと組み合わせることで、35+チェーンにわたる資産を一つのエージェントが管理できる構造が実現されます。
100万TPSとAIエージェント経済への対応
AIエージェントの大量稼働時代では、人間が手動で行うトランザクションよりも遥かに多い『機械間の高頻度マイクロトランザクション』が発生します。NEARは2026年のロードマップで100万TPSを目標とし、これを実現するための技術投資を継続しています。
Nightshadeシャーディング
NEARの基盤技術であるNightshardingは、ブロックチェーンを複数のシャード(並列処理可能な分割ネットワーク)に分割する仕組みです。シャード数を動的に増やすことで、需要に応じてスループットを拡張できます。
MPCネットワーク拡張
Chain Abstractionの基盤となるMPCネットワークも、2026年のロードマップで拡張対象です。より多くのチェーンへの署名対応、より高速な署名生成、より分散されたMPC参加者ネットワークが整備される予定です。
TEE(信頼実行環境)の標準化
Multi-chain verifiable execution via trusted execution environments(TEEを介したマルチチェーン検証可能実行)が2026年の重要マイルストーンとして掲げられています。これにより、AIエージェントが複数チェーンで実行したアクションの正当性が、暗号学的に検証可能な形で証明されます。
NEAR AI生態系の主要プレイヤー
NEAR上のAI関連エコシステムには、複数の興味深いプロジェクトが立ち上がっています。
Bitte Protocol
NEAR上で動くオープンソースAIエージェントフレームワークで、ユーザーがNEARアカウントをAI操作できるよう設計されています。Chain Abstractionとの統合により、Bitteのエージェントは複数チェーンで活動できます。
NEAR Tasks
AIエージェントが実行可能なタスクを定義・管理するシステムで、ユーザーがエージェントに『何をしてほしいか』を自然言語で指示する仕組みが用意されています。
Confidential AI Compute
NEAR上で稼働するTEEベースのAI推論プラットフォームで、機密性の高いAIタスクを安全に実行できます。
NEARのトークノミスク
NEARの初期供給量は1B(10億)で、年率5%のインフレ報酬がバリデータ・デリゲータへの報酬として継続発行されます。一方、トランザクション手数料の70%はバーン(焼却)される設計で、ネットワーク利用が増えるほど供給締め圧力が増す構造になっています。AIエージェントが高頻度トランザクションを大量に発行する2026年以降は、このバーン設計がトークン需給に与える影響が大きくなります。
ステーキング比率は2026年初頭時点で約40〜50%程度で、年率報酬は5〜8%程度です。NEAR Walletから簡単にバリデータへ委任できる設計で、長期保有・委任ステーキングの選択肢として安定した報酬が見込めます。
NEAR上のAIエージェントが解決する具体ユースケース
NEAR Protocolの抽象的な技術説明だけでなく、実際にUser-Owned AIとChain Abstractionを使うことで何が可能になるのか、具体ユースケースを整理します。
マルチチェーン自動利益確定エージェント
ユーザーがBitcoin、Ethereum、Solana、Polygonにそれぞれ資産を分散保有している場合、各チェーンごとに別々のウォレットを開いて利益確定操作をするのは煩雑です。NEAR上のAIエージェントは、Chain Signaturesによりすべてのチェーンに横断的に署名できるため、『BTCが+30%になったら20%を売却してUSDCに換える』『ETHが+50%になったら30%を売却してSOLに乗り換える』のような戦略を、一つのエージェントとしてマルチチェーンで実行できます。
クロスチェーン税務最適化エージェント
年末の損益通算・税務最適化は、複数チェーンに資産を分散している投資家にとって極めて煩雑な作業です。NEAR上のエージェントが、各チェーンの保有資産・含み損益をリアルタイムで集計し、損切りすべきポジション・利益確定すべきポジションを提案・自動執行する用途が想定されます。
マルチチェーンDCA(積立投資)エージェント
毎月特定額のJPYで複数チェーンの主要銘柄を分散積立する設計を、エージェントに委ねる用途です。NEAR Walletから法定通貨入金、各チェーンへの最適なルーティング、為替変動を考慮したタイミング選定までを自動化できます。
機密性の高い金融タスクの自動執行
Confidential Computing対応により、ハードウェアウォレットの秘密鍵相当の機密情報を扱うタスクも、NEARのTEE上のAIエージェントが安全に処理できます。具体的には、巨額資産の段階的な分散送金、機関投資家のポジション管理、機密性の高い金融取引などが想定されます。
NEARの購入方法と保管
取引所の選択
2026年5月時点で、NEARは主要な国内・海外取引所の多くで取引可能です。海外ではBybit、Binance、Coinbase、Krakenなど主要取引所、国内ではbitFlyer・GMOコイン・bitbankなどで日本円建て取引に対応しています(最新の取扱状況は各取引所の公式サイトで確認してください)。
ウォレットでの保管
NEARはNEAR独自のチェーン上のネイティブトークンです。NEAR Wallet(公式)、Metの NEAR対応版、Ledger・Trezorなどのハードウェアウォレットでの保管が可能です。Near.com Super-Appを使えば、メール/FaceIDだけでアカウントを作って簡単に保管・運用できます。
バリデータ委任とステーキング
NEAR WalletまたはNear.com経由で、選んだバリデータにNEARを委任できます。年率5〜8%程度のリターンが見込め、長期保有との相性が良い構造です。
NEAR とAI銘柄ポートフォリオでの位置付け
対 ICP(Internet Computer)
ICPはAIモデルをスマートコントラクトとしてオンチェーン実行、NEARはAIエージェントの『鍵・資産・データ管理層』として機能する構造で、両者は補完関係です。User-Owned AIとオンチェーンAI推論を組み合わせる構成も技術的に可能です。
対 Injective(INJ)
INJはDeFi特化L1でiAgent 2.0などAIエージェント向けインフラを提供、NEARはより汎用的なAIエージェント基盤として 35+チェーン横断・User-Owned AI設計でポジショニング差があります。NEARが『広く浅く(マルチチェーン汎用)』、INJが『狭く深く(DeFi特化)』という棲み分けです。
対 Solana
SolanaはelizaOSなどAIエージェントフレームワークの主舞台として一足先にAIエージェント領域で広く採用されています。NEARはChain Abstraction・User-Owned AI設計でSolanaに対抗し、特に『複数チェーンを横断するエージェント』を作りたい開発者にとっての主要選択肢として頭角を現しています。
対 Bitcoin・Ethereum等の主要L1
BitcoinやEthereumはAIエージェント特化の機能を直接提供しないため、AIエージェントが取引を行うには中間層が必要です。NEARのChain Signaturesは、まさにその中間層の役割を担い、Bitcoin・EthereumをAIエージェントが利用しやすくする補助インフラとして機能します。
NEARのリスクと注意点
1. 高速L1間の競争
Solana、Aptos、Sui、Monad、Aleo等の高速L1との競争は継続中です。各プロジェクトがAIエージェント向け最適化を進めており、NEARが先行優位を維持できるかは継続観察対象です。
2. Chain Abstractionの普及速度
Chain Abstractionは技術的に革新的ですが、エンドユーザー・開発者・取引所への普及には時間がかかります。多くの開発者がまだ『単一チェーンで完結』する設計に慣れているため、Chain Abstractionの利点が広く認知されるまでマーケットシェア拡大は緩やかな構造です。
3. AIエージェント市場全体の調整局面
NEARのAI銘柄としての評価は、AIエージェント市場全体の景気サイクルに連動します。AIナラティブが冷え込めば、NEAR含む全AI銘柄が一斉に下落する局面もあり得ます。
4. 機関投資家からの注目度
Bitcoin・Ethereumと比べると機関投資家からの注目度は低く、Bitcoin/Ethereum/Solana中心のポートフォリオに加える必要性が説得しにくい状況があります。スポットETF化など機関アクセス整備は今後の課題です。
5. MPCネットワークセキュリティ
Chain Abstractionの中核となるMPCネットワークは、技術的に新しい仕組みです。MPC実装にバグや脆弱性があった場合、複数チェーンに連鎖的に影響が出るリスクがあります。継続的な監査と改善が必要な領域です。
6. インフレ報酬と希薄化
年率5%のインフレが継続する設計のため、利用拡大が伴わない期間はNEARの希薄化が起きます。トランザクション手数料70%バーンによる供給締め圧力との均衡が、トークン価値を支える前提条件です。
7. AIナラティブからの単純な切り離し
NEARはL1としての地力(決算性能、開発者エコシステム、企業導入)が一定程度あるため、AIナラティブが冷えてもL1としての価値で支えられる側面があります。一方、AIナラティブが過熱している局面では、AI特化L1(Bittensor、ICP等)に資金が流れる場面で見落とされやすい構造もあり、ポジショニングの見せ方が継続的な課題です。
8. ユーザー所有AIモデルの普及障壁
User-Owned AIは思想として優れていますが、エンドユーザー側でのリテラシーが必要な仕組みでもあります。多くの一般ユーザーは『中央集権AIに任せておけば楽』という発想に流れる傾向があり、自分のデータ・鍵を自分で守るUser-Owned AIへの移行は、規制圧力や事故(中央集権AIのデータ漏洩など)が引き金になって起こることが多い構造です。NEARが先行投資した分のリターンが具体的に出るタイミングは予測しにくい性質があります。
まとめ:AIエージェント時代の汎用L1
NEAR Protocolは、Transformer論文共著者のIllia Polosukhin氏率いるAI研究背景の強いL1として、2026年に『AIエージェント時代のSuper-App Layer』としてのポジションを確立しつつあります。Chain Abstraction、MPC+Chain Signatures、User-Owned AI、Confidential Computing、100万TPSという独自の技術スタックは、他のAI志向L1とは異なる切り口でAI×Web3の交差点を攻めています。
投資判断の軸としては、Chain Abstraction経由の他チェーン取引数の伸び、Near.com Super-Appのアクティブユーザー数、NEAR AI上のエージェント数、Confidential Computing採用事例、機関投資家の保有動向の5つを継続的にモニタリングすることが重要です。NEARを単独銘柄として保有するだけでなく、TAO・FET(ASI)・VIRTUAL・GRTなど他のAIインフラ系銘柄と組み合わせて、AI×Web3全体に分散エクスポージャーを得るポートフォリオ構築の文脈でも価値があります。
AI銘柄全体の動向、AIエージェント領域、用語の基礎は本サイトの『仮想通貨AI銘柄まとめ』pillar記事、『AIエージェント×Web3』pillar記事、『AI×仮想通貨用語完全ガイド』も併せて参照してください。
