2026年9月19日夜(UTC)から20日にかけて、AI関連トークンのFET・NTX・AGIX・WMTxが立て続けに不正流出・不正発行の被害に遭った。震源はSingularityNETのクロスチェーンブリッジのバックエンド署名鍵の窃取で、単一の攻撃者が複数プロジェクトを同時に突いた。当初200万ドル規模とされた被害総額は、9月21日時点の追加調査で攻撃者保有資産の評価額1677万ドルまで拡大したと報じられている。一方でBTC・ETHは底堅く推移しており、AIセクター全体というより特定プロジェクト固有のセキュリティ事案として市場は消化しつつある。

いま相場で何が起きているか

2026年9月21日時点、BTCは81,700ドル前後(24hでほぼ横ばい、-0.1%程度)、ETHは2,600〜2,690ドル圏(24h+2.4%前後)で推移し、両者とも直近の底堅さを維持している。AI関連セクターの合計時価総額は約227.9億ドル(CoinGeckoベース)で、NEAR(時価総額約54.1億ドル、価格4.14ドル前後)とTAO(時価総額約29.7億ドル、価格261.95ドル前後)の2銘柄でセクター全体の3分の1程度を占める偏在構造が続く。

一方、当事者となったFETは9月21日時点で0.169〜0.174ドル圏まで下落し、24hで約4〜10%安(集計元により差がある)。NTXは0.000066ドル前後まで急落し、9月20日には一時0.00004075ドルの過去最安値(ATL)を記録、直近24hでの下落率は最大95%に達したと報じられている。AGIX・WMTxについては現時点で市場価格への影響を裏付ける確定的な数字は確認できていないが、供給量が急拡大した事実自体が両トークンの需給に重石となりうる。

何がこの動きを作ったか

発端は、SingularityNETが運用するイーサリアム・カルダノ間のクロスチェーンブリッジのバックエンド署名鍵が攻撃者に窃取されたことだ。攻撃者はこの鍵を使って正規の署名を偽造し、Fetch.aiのトークンコンバーター契約(TokenConversionManagerV3)のconversionIn関数を呼び出し、コンバーターに残っていたFET在庫8,721,530枚(約155万ドル)を引き出した。これとほぼ同時(同一分内)に、NuNetの発行者アカウントの鍵も悪用し、供給量の42%に相当する4億850万NTXを不正発行している。

さらに9月20日には、SingularityNET側で2.6億枚のAGIX、World Mobile側で5,384万枚のWMTxが追加で不正発行されていたことが判明し、被害の裾野が当初報道より広いことが明らかになった。攻撃者ウォレットには盗難FETに加え、数百ETH規模(報道によって547.89ETHまたは649ETH)も保有されており、これらを時価評価した攻撃者保有資産の総額が1677万ドルとされている。Fetch.aiとSingularityNETは共同で影響を受けたウォレットとコントラクトの無効化を進め、AGIXからFETへの転換機能を予防的に一時停止した。

ファンダメンタルをどう見るか

今回の事案は、AIトークンの技術やユースケースそのものへの疑義ではなく、複数プロジェクトを橋渡しするクロスチェーンブリッジの鍵管理という運用面の脆弱性が引き金になっている点が重要だ。単一の署名鍵が複数プロジェクトの資金移動権限を握る設計は、鍵が破られた瞬間に被害が連鎖的に広がる構造的リスクを内包する。NTXのように供給量の4割以上が一気に不正発行された場合、たとえ攻撃者が資金を換金しなくても、市場は将来の売り圧力を織り込んで即座に価格を再評価する。これがNTXの急落幅が特に大きくなった背景とみられる。

他方でFETは、Fetch.ai本体のプロトコル収益やエージェント関連の需要指標に直接の毀損があったわけではなく、下落幅もNTXに比べれば限定的(1桁%〜10%程度)にとどまっている。この違いは、ハッキングの影響が「盗難額そのもの」よりも「不正発行による希薄化の規模」に強く連動していることを示唆する。

資金はどこへ動いているか

BTCドミナンスは直近60%台後半の高水準を維持しており(9月19〜20日時点で60.66%)、アルトコインシーズン指数も30台前半にとどまるなど、資金がBTCに偏在する地合いは今回のハッキング報道後も大きくは崩れていない。AIセクター内ではNEAR・TAOへの資金集中がなお続いており、FET・NTX・AGIX・WMTxのような個別プロジェクトのセキュリティ問題は、セクター全体の資金フローを反転させるほどのインパクトには至っていないというのが現時点の見立てだ。むしろ、資金が「安全と見なされる大型銘柄」へさらに寄る形で、AIセクター内の二極化を強める方向に働く可能性がある。

注目銘柄と価格水準

  • FET(Fetch.ai): 2026年9月21日時点で0.169〜0.174ドル圏。直近1週間では小幅高(+1.6%程度)を維持しており、今回の下落で失った水準を回復できるかが当面の焦点。0.17ドル前後が心理的な節目として意識されやすい
  • NTX(NuNet): 0.000066ドル前後で推移し、9月20日のATL(0.00004075ドル)からは幾分戻したものの、供給量の急拡大を受けた希薄化圧力は残る
  • NEAR: 4.14ドル前後、時価総額約54.1億ドルでAIセクター最大。ハッキング報道の影響をほぼ受けず堅調を維持しており、セクター内資金の「逃避先」的な位置づけが強まっている
  • TAO(Bittensor): 261.95ドル前後、時価総額約29.7億ドルでセクター2位を維持

FET・NTXともに国内の暗号資産交換業者での取扱いは限定的なため、取引を検討する場合は各社の公式サイトで取扱状況を確認する必要がある。

想定されるシナリオとリスク

クロスチェーンブリッジの鍵管理を突いたハッキングは今回が初めてではない。Ronin Bridge(2022年、約6億ドル規模)やWormhole(2022年、約3.2億ドル規模)、Poly Network(2021年、約6億ドル規模、後に返還)など、過去にも同種の手口で巨額の被害が発生してきた。これらの先例では、被害発覚直後に対象トークンが急落した後、プロジェクト側の補償策や再発防止策の発表を経て数週間〜数か月かけて価格が回復するケースと、信頼を回復できずに低迷が長期化するケースの両方が見られる。今回のFET・NTX・AGIX・WMTx連鎖被害がどちらの経路をたどるかは、今後の被害範囲の確定と各プロジェクトの対応スピード・透明性にかかっている。

上振れシナリオとしては、Fetch.ai・SingularityNET・NuNet・World Mobileの4者が被害範囲の確定と再発防止策(署名鍵の分散管理・マルチシグ化など)を早期に発表すれば、FETを中心に信頼回復が進み、下落分の一部を取り戻す展開が考えられる。下振れシナリオとしては、調査の過程でさらに被害額が上振れしたり、他の連携プロジェクトへ被害が波及した場合、NTX同様の急落がAGIXやWMTxにも及ぶ可能性がある。BTC・ETHが底堅い地合いを維持している間は、今回の事案がセクター全体に波及するリスクは相対的に低いとみられるが、AIセクターへの資金流入が鈍る局面では個別プロジェクトのセキュリティ懸念がより強く価格に反映されやすい点には注意が必要だ。

まとめ

  1. SingularityNETのブリッジ署名鍵窃取を起点に、FET・NTX・AGIX・WMTxの4銘柄で不正流出・不正発行が連鎖し、攻撃者保有資産は1677万ドルまで拡大したと報じられている
  2. NTXは供給量42%相当の不正発行を受けて一時95%急落、FETの下落幅はそれに比べ限定的で、影響度はプロジェクトごとの希薄化規模に連動している
  3. BTC・ETHおよびNEAR・TAOなどセクター主力銘柄は底堅く、現時点では今回の事案がAIセクター全体の資金フローを反転させる兆候は見られない

なお編集部はClaude Codeによる自動売買を実運用しており、検証結果は運用実績ページとニュースレターで公開している。