米Strategy(旧MicroStrategy)が8月10日、8月3〜9日の間に1,690BTCを平均64,262ドルで売却し、1.086億ドルを調達したとSEC開示で明らかにした。取得平均価格75,385ドルに対する損切りで、差額は1BTCあたり約11,123ドル、売却分だけで約1,880万ドルの損失になったと複数メディアが報じている。同日、企業の時価総額を保有BTC価値で割った指標「mNAV」は基本ベースで0.70倍まで低下していることも確認され、「絶対に売らない」を掲げてきた同社の資本政策が転換点にあることを数字が裏付けた形だ。

いま相場で何が起きているか

2026年8月11日8時JST時点でBTCは63,953.72ドル(24時間-1.60%)、ETHは1,874.24ドル(24時間-2.3%)とともに軟調。AIセクター(広義)の時価総額は約207.3億ドルで24時間ではほぼ横ばい、うちAI Agentsサブカテゴリは27.2億ドル(-0.6%)とやや弱い。個別ではTAOが198.62ドル(+3.8%)、RENDERが1.27ドル(+4.9%)、ICPが2.27ドル(+3.2%)、NEARが1.60ドル(+2.5%)と主要AIトークンの一角がBTC安を尻目に反発している一方、FETは0.1341ドル(24時間-1.80%、7日-7.50%)と出遅れている。Fear&Greed指数は51(ニュートラル、8月10日14:34UTC時点)で、パニック的な地合いではない。

何がこの動きを作ったか

直接の材料はStrategyのSEC開示だ。8月3〜9日の週に1,690BTCを平均64,262ドルで売却し、調達した1.086億ドルをSTRC(変動利付優先株)の買い戻しとUSD準備金の積み増しに充てたと開示された。買い戻したSTRC株数は1,152,020株、USD準備金はこれで4.65億ドルに達している。STRC株は額面100ドルを下回って推移しており、買い戻しは株価を額面へ戻す防衛的な措置と位置付けられている。同時にMSTR株の追加売り出しで6.59百万株、6.531億ドルも調達しており、BTC売却と株式発行を組み合わせた資本繰りが行われた。

加えてStrategyは7月27日〜8月2日の週にも1,638BTCを売却しており、今回はそれに続く2週連続の売却となる。単発の資金繰りではなく、STRCなど優先株の配当・額面維持を目的とした売却が定例化しつつある構図が浮かぶ。市場はこれを受けてMSTR株を売り、月曜寄り付きは前営業日比0.46%安の99.20ドルとなった。Mizuho SecuritiesのアナリストDan Dolev氏は目標株価を213ドルから165ドルへ引き下げている。

ファンダメンタルをどう見るか

今回の一件で最も重要な数字はmNAVだ。StrategyのmNAV(基本ベース)は8月10日時点で0.70倍まで低下しており、2024年11月の約3.4倍から大幅に縮小している。負債や優先株を含めたエンタープライズ・バリューベースのmNAVでも1.04倍と、資本構造全体でようやくBTC保有価値と釣り合う水準まで落ちた。

Strategyの成長モデルは「株価がBTC保有価値にプレミアムが乗った状態で新株を発行し、調達資金でさらにBTCを買う」というフライホイールに支えられてきた。しかしmNAVが1倍を割り込むと、新株発行はBTC-per-shareを希薄化させる方向に働き、フライホイールが逆回転する。今回のBTC売却は、フライホイールが機能しなくなった局面で優先株の配当原資を確保するための現実的な選択だったとみることができる。裏を返せば、Strategyの企業としての持続性はもはや「BTCをどれだけ買い増せるか」ではなく「優先株の負担にどう耐えるか」というクレジット(信用)の物語にシフトしつつある。

資金はどこへ動いているか

興味深いのは、Strategyが売り手に回った同じ週に、米国のBTC現物ETFには週8.5354億ドルが流入し、4月17日以来最大の週間流入となったことだ。日次ではIBIT(BlackRock)が6.935億ドルと突出し、FBTC(Fidelity)1.165億ドル、ARKB0.508億ドル、BITB0.259億ドル、MSBT0.214億ドルが続いた一方、HODL(VanEck)から0.536億ドル、BTCO(Invesco)から0.127億ドルの流出があった。この資金の一部は7月30日に発覚したColdcardハードウェアウォレットの脆弱性を受け、自己保管からETF経由の規制下カストディへ資金を移す動きとも重なっている。

つまり同じ週のBTC市場では、「絶対に売らない」を掲げてきた最大の企業保有者が売り、機関投資家はETF経由で買い増すという資金の温度差が生じている。1,690BTCという規模自体はETF週間流入(単純計算で13,000BTC相当)に比べ小さく、価格インパクトは限定的だが、心理的なシグナルとしての重みは無視できない。

過去の類似局面との比較

Strategyは2022年12月に一度だけ704BTCを売却した実績があるが、以降は「絶対に売らない」方針を貫いてきた。今年5月末に32BTCを売却して約3年半ぶりに方針転換した際もMSTR株は急落したが、その後も7月27日〜8月2日の1,638BTC、8月3〜9日の1,690BTCと売却が続き、単発イベントから定例的な資本政策へと性質が変わりつつある。過去、新規購入発表時にはBTC・MSTR株ともに買われる場面が多かったが、売却発表時の反応は毎回MSTR株の下落という形で一貫しており、市場が「売却の定例化」を織り込み始めている可能性がある。

注目銘柄と価格水準

MSTR株は月曜寄り付きで99.20ドルまで下落し、心理的節目の100ドルを割り込んだ。Mizuhoの目標株価165ドル(旧213ドルから引き下げ)が次の参照点になる。BTC自体は63,954ドル前後で推移しており、直近レンジの下限を試す動きになるかは、今週予定されている追加のETF資金フロー動向次第だろう。AIトークンではTAOが198.62ドル(+3.8%)と底堅く、Grayscale・BitwiseのBittensor現物ETF審査が8月中に予定されている点が引き続き材料視されている。BTC・MSTR・TAOはいずれも国内の暗号資産取引所や米国株取扱い証券会社経由でアクセス可能だが、取扱い有無は各社で確認が必要だ。

想定されるシナリオとリスク

上振れシナリオとしては、ETF経由の機関資金流入がこのまま続き、StrategyのBTC売却分を吸収してBTC相場自体は底堅さを維持するケースが考えられる。この場合、mNAVの回復とともにStrategyの売却圧力も後退する可能性がある。一方、下振れシナリオとしては、STRCなど優先株の配当負担が続く限りBTC売却が定例化し、mNAVディスカウントがさらに拡大して株式発行によるBTC買い増しという成長モデル自体が機能不全に陥るケースだ。この場合、Strategyが保有する84万BTC超という規模を踏まえると、追加売却の観測だけでも短期的なセンチメント悪化要因になり得る。いずれも現時点では条件付きのシナリオであり、断定はできない。

まとめ

Strategyは2週連続でBTCを売却し、8月3〜9日の1,690BTC(平均64,262ドル)は取得コストを下回る損切りだった。mNAVは0.70倍まで低下し、株価プレミアムを前提にした「BTC買い増しフライホイール」が逆回転し始めている。一方で同じ週にBTC現物ETFには4月以来最大の資金が流入しており、企業保有者の売りと機関投資家の買いという資金の温度差が今後どちらに収斂するかが焦点になる。編集部はClaude Codeによる自動売買を実運用しており、検証結果は運用実績ページとニュースレターで公開している。