EU規制は「完成形」ではなく、更新前提へ
欧州の暗号資産規制をめぐり、次の焦点として「MiCA 2」の可能性が意識され始めています。Cointelegraphによると、欧州委員会のPeter Kerstens氏は、Paris Blockchain Week 2026で、MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)は市場の成熟に応じて見直される可能性が高いと述べました。EUは今後、公開協議を通じて、現行ルールが市場参加者にとって機能しているか、事業成長を支えているかを確認していく方針です。
MiCAはEU全域で暗号資産の市場ルールを統一する枠組みで、暗号資産サービス事業者に対するライセンスや組織体制、資本要件などを定めています。欧州証券市場監督局(ESMA)も、MiCAが域内での共通ルールとして機能し、段階的に実装が進んでいることを示しています。
「MiCA 2」が示すのは、規制の再調整プロセス
今回のポイントは、EUがMiCAを「失敗した制度」と見なしているわけではないことです。Kerstens氏の発言は、むしろ市場構造が変化するなかで、既存の規制が十分かどうかを定期的に検証する姿勢を示したものです。Cointelegraphは、MiCAにはもともとレビュー条項があり、欧州委員会は2027年6月30日までに適用状況を報告し、必要に応じて立法提案を行えると伝えています。
このため「MiCA 2」は、いきなり新法が上書きされるというより、既存制度の補強版・改訂版として議論される可能性が高いと読むのが自然です。規制の対象範囲、ライセンス運用、開示義務、国境をまたぐサービス提供の実務など、運用段階で見えてきた課題が次の論点になると考えられます。これはあくまで制度設計の推移からの推測ですが、EUのデジタル金融政策は段階的に更新される傾向があります。
背景にあるのは「市場の成熟」と「事業者の圧力」
MiCA見直しの議論が出てくる背景には、暗号資産市場の拡大と、規制対応コストの上昇があります。Cointelegraphは別記事で、MiCAの導入によって小規模事業者は認可取得やガバナンス強化、継続的な報告対応の負担が増し、EU市場での競争環境が厳しくなっていると報じています。
また、EUの議員質問でも、MiCAが小規模オペレーターに与える比例性の問題が議論されています。つまり、制度自体の方向性は維持しつつも、実務面では「大手向けに最適化されすぎていないか」「中小事業者の参入余地を残せているか」が問われているわけです。
事業者にとっての論点は、ライセンスよりも運用設計
EUで暗号資産ビジネスを展開する企業にとって、MiCA 2の議論は単なる法改正ニュースではありません。むしろ、今後の事業設計に直結する論点です。
- どのサービスがMiCAの対象に入るのか
- 国ごとの移行期間や運用差をどう吸収するのか
- 開示、内部統制、資本要件をどの水準で満たすのか
- DeFiや完全分散型サービスをどこまで制度に取り込むのか
MiCAはEU27か国に横断的なルールを与えるため、一度ライセンスを取得すれば域内展開しやすいという利点があります。一方で、その分だけ要件を満たすハードルも高くなりやすく、事業者は「取得できるか」だけでなく「取得後にどう運用するか」まで含めた設計を求められます。
日本の読者が見るべきポイント
日本から見ると、MiCA 2の議論は欧州ローカルの話に見えるかもしれません。しかし、暗号資産の制度設計は国際的に影響し合います。EUがルール整備を進めることで、海外取引所、ウォレット事業者、ステーブルコイン発行体、RWA関連企業などがEU向けの体制を整え、その基準が他地域の実務にも波及する可能性があります。
とくに、EUが今後どこまで規制を細分化するかは、暗号資産ビジネスの標準化に影響します。もしMiCA 2が導入されるなら、単に規制が厳しくなるのではなく、「何を規制し、何を分散型のまま残すのか」を再定義する作業になるはずです。そこでは、投資商品よりもインフラ、取引所よりもコンプライアンス、トークン価格よりも事業継続性が重視されるでしょう。これは制度動向から読み取れる実務上の含意です。
まとめ
MiCA 2という言葉はまだ構想段階の表現ですが、EUが暗号資産規制を一度で固定せず、市場の変化に合わせて更新していく姿勢は明確です。今後は、公開協議やレビュー条項を通じて、どこまで制度を広げ、どこで線を引くのかが問われます。暗号資産市場の次の競争軸は、価格や銘柄だけでなく、規制に適応できる事業設計そのものに移りつつあります。
