ビットコインの採掘難易度が2025年11月の史上最高値155.97兆から19.1%低下し、2026年8月1日時点で126.23兆となった。年初来でも14%の低下で、2021年の中国採掘禁止時以来2度目となる年間ベースでの難易度低下局面に入っている。背景にあるのはBTC価格低迷による採掘収益の圧迫と、マイナー各社のAIデータセンター事業への資本シフトだ。折しもロシアは8月15日からモスクワ州などで新たな採掘禁止に踏み切る方針で、供給構造の変化が今後の値動きにどう波及するか注目される。

いま相場で何が起きているか

2026年8月4日夕方時点でBTCは6万3,700ドル台、24時間で+1.6%と底堅く推移している。24時間出来高は約253億ドル、時価総額は1兆2,780億ドル。AIセクター全体の時価総額は約209億ドルで24時間-1.2%とやや軟調な一方、個別ではFET(Artificial Superintelligence Alliance)が+3.6%、ICPが+2.1%、TAOが+1.1%、NEARが+1.0%、LINKとRENDERが+0.5%とプラス圏の銘柄が多い。AIセクター全体の指数が下げても主要銘柄が逆行高というまだら模様は、7月末以降このセクターで繰り返し観測されているパターンだ。

マイニング関連では採掘難易度の低下がここ数日の材料になっている。ビットコインのハッシュプライス(採掘収益を示す指標)は6月下旬に1ペタハッシュ・1日あたり27.66ドルまで落ち込んだ後、直近は31.70ドルまで回復したが、年末時点の予想値も31.85ドル程度にとどまり、マイナー各社にとって2026年内の大幅な収益回復はほぼ期待できない水準が続いている。

何がこの動きを作ったか

難易度低下の要因は大きく3つに整理できる。第一にビットコイン価格の下落による採掘収益の圧迫、第二にAI・高性能計算(HPC)インフラへの資本と計算資源のシフト、第三にテキサス州など主要採掘地域での電力制約だ。

特に第二の要因が顕著で、Hut8は米テキサス州のビーコンポイント拠点で総額約98億ドル規模の15年契約をAIデータセンター向けに2件締結し、契約容量597メガワット・契約総額は約266億ドル、年間想定営業純利益は17.5億ドル超に達するとされる。TeraWulfもFluidstackとの長期契約でニューヨーク州の数百メガワット規模の計算資源をAI向けに提供するほか、Cipher MiningやIREN、TeraWulfはGoogle・Microsoft傘下企業ともHPC向け複数年契約を結んでいる。モルガン・スタンレーはTeraWulfとCipher Miningの目標株価をそれぞれ41.50ドル・40.50ドルへ引き上げ、両社ともオーバーウェイト評価を維持している。

ロシアの採掘禁止追加はこの流れとは別方向の材料だ。ロシア政府は7月25日にミシュスチン首相が署名した決議936により、モスクワ市・モスクワ州全域とクルスク州の一部地域を対象にビットコイン採掘を禁止する対象地域へ追加、8月15日から2032年12月31日まで適用される。理由は電力網の負荷リスクで、モスクワの電力系統内で約1ギガワットがマイニングに消費されているとされる。ロシアは推計で世界のハッシュレートの約17%を占めるとされ第2位の採掘国だが、今回の規制対象はその一部地域にとどまり、世界全体のハッシュレートへの影響は未検証との指摘もある。

難易度の低下自体は一過性の需給要因というより、マイニング事業の構造変化を映す指標として見る必要がある。CoinSharesは2026年3月時点でマイナーのフリート全体の15〜20%が赤字操業状態にあると推計しており、最新鋭のASIC機材と低い電力コストを持つ事業者以外は採算が厳しい状況が続いている。公開マイナー各社は2026年第1四半期だけで3万2,000BTC超を売却しており、これは2025年通年の売却量を上回る規模だ。

一方でAI・HPC事業への転換は投機的な期待先行ではなく、実際の長期契約に裏付けられた収益源になりつつある。Hut8の契約総額266億ドルという規模は、同社の従来のビットコイン採掘事業単体の時価総額をはるかに上回る水準であり、市場もこれを織り込んでマイニング株群を「電力インフラ企業」として再評価する動きが広がっている。

資金はどこへ動いているか

マイニング銘柄群とビットコイン価格の連動性は、2026年に入り目立って弱まっている。年初来ではマイニング株のバスケットが56%上昇する一方でビットコインは17%下落する局面もあり、AI・HPC契約のニュースが出るたびにBTC価格とは無関係にマイナー株だけが急伸するケースが増えている。7月20日にはHut8の98億ドル規模のAIデータセンター契約報道を受けてMARA・Riot Platformsが連れ高となり、7月27日にはAI半導体株の急落を受けた資金がStrategy・BitMine・Coinbase等の暗号資産株へ回転する一方でAI化した一部マイナー株はむしろ売られるなど、資金フローの方向は日によって振れやすい。

ビットコイン現物ETFは7月月間の流入額が約2.05億ドルと過去最小水準にとどまり、8月に入っても方向感の乏しい展開が続いている。マイニング難易度低下による新規発行BTCの供給圧力の変化と、マイナー各社の売却姿勢の変化が、今後のETFフローや現物需給にどう波及するかが焦点になる。

過去の類似局面との比較

年間ベースでの採掘難易度低下は2021年の中国政府による採掘全面禁止以来2度目となる。当時は中国国内のハッシュレートが数カ月でほぼゼロまで落ち込んだ後、北米を中心に再分散する形で半年程度かけてハッシュレートが回復した経緯がある。今回はマイナー主導のAI転換という自発的な資本シフトが主因である点で構造が異なり、採掘拠点の地理的移転というより採掘事業そのものの縮小・転用が進んでいる点が特徴だ。ロシアの禁止も地域限定的である以上、2021年のような急激なハッシュレート消失とは性質が異なる可能性が高い。

注目銘柄と価格水準

マイナー株のうちHut8・TeraWulf・Cipher MiningはAI・HPC契約の進捗が株価材料になりやすく、目標株価はモルガン・スタンレーがTeraWulfを41.50ドル、Cipher Miningを40.50ドルへ引き上げている。両社とも国内取引所での直接取引はできず、米国株として取引する必要がある。

仮想通貨側ではFETが8月4日時点で0.145ドル前後、AIセクター全体が軟調な中で+3.6%と唯一大きく逆行高した。次回のトークンアンロック(AGIX移行分、約251万FET)は8月28日に予定されており、需給面での注目イベントとなる。TAOは190ドル台で推移し、Grayscale・BitwiseによるTAO現物ETFの審査結果が8月中に判明する見通しで、思惑買いが続いている。BTC自体は6万3,000〜6万5,000ドルのレンジが8月に入ってからの目安として意識されている。

想定されるシナリオとリスク

上振れシナリオとしては、マイナー各社のAI契約が想定通り履行され安定収益源として認識が広がれば、マイニング株群の「BTC非連動化」がさらに進み、AI銘柄・AI関連株との連動性が強まる展開が考えられる。この場合、AIセクター指数とマイナー株の相関がBTC価格との相関を上回る局面が増える可能性がある。

下振れシナリオとしては、ロシアの禁止措置が想定以上にハッシュレートへ影響し、他地域への採掘拠点移転が追いつかない場合、短期的なハッシュレート急減とマイニング難易度の急低下が連鎖し、ネットワークの安定性やマイナーの収益構造に想定外の変動をもたらすリスクがある。またAIデータセンター向けの巨額投資が想定した稼働率・賃料水準を確保できなければ、マイナー各社の財務レバレッジがリスク要因として顕在化する可能性も残る。BTC自体が6万3,000ドルを明確に割り込む展開になれば、マイニング収益はさらに圧迫され、赤字操業マイナーの淘汰が加速することも考えられる。

まとめ

採掘難易度は2025年11月高値比19.1%低下し、マイナー各社の収益性悪化とAIデータセンターへの資本シフトが背景にある。ロシアは8月15日からモスクワ地域で採掘禁止を追加するが、対象は限定的で世界全体のハッシュレートへの影響は未検証だ。マイニング株群はBTC価格との連動が弱まりつつあり、AI・HPC契約の進捗が独自の株価材料になっている点をトレーダーは意識しておきたい。なお編集部はClaude Codeによる自動売買を実運用しており、検証結果は運用実績ページとニュースレターで公開している。