2026年8月3日正午(JST)時点、ビットコイン最大の企業保有者であるStrategy(旧MicroStrategy)の保有ビットコイン843,775枚が、平均取得原価を下回る水準に沈んでいる。取得コスト総額は約636.9億ドル、現在の時価評価額は約532億ドルで、差額はおよそ90億ドル。株価に対する保有BTC価値の倍率を示すmNAVは基本ベースで0.67倍まで低下した。Q2決算では最大50億ドルのビットコイン売却枠を新設したばかりの一方、8月2日にはSaylor氏が購入再開を示唆する投稿を行っており、機関マネーの体温計とされてきたStrategyの姿勢が揺れている。
いま相場で何が起きているか
BTCは6万3,078ドル前後(-0.59%)、ETHは1,861.08ドル(-1.13%)と週明けも軟調に推移している。仮想通貨市場全体は方向感に乏しく、恐怖強欲指数は27(Fear)で高止まりが続く。BTCドミナンスは56%台で大きな変化はなく、資金がアルトコインへ積極的に回転している様子はない。AIセクターの時価総額は約212億ドルで24時間比+0.6%とほぼ横ばい。個別ではChainlink(LINK)が8.29ドル(+1.8%)で堅調な一方、Bittensor(TAO)は190ドル前後(+1.2%)、NEAR Protocolは1.70ドル(横ばい)、Render(RENDER)は1.36ドル(+0.3%)と小動きにとどまっている。派手な値動きが乏しい相場の中で、この日最も情報量が多いのはトークン価格そのものではなく、ビットコイン最大の企業保有者であるStrategyの財務構造に関する材料だ。
何がこの動きを作ったか
発端は7月末のQ2決算だ。Strategyはこの決算call で、最大50億ドルのビットコイン売却を可能にする枠組みを新設した。内訳は、USD準備金の維持に12.5億ドル、優先株の年間配当・利払いに17.6億ドル、普通株・優先株の自社株買いに20億ドルという3本立てで、いずれも「保有BTCを取り崩してでも財務義務を優先し得る」余地を明文化したものだ。実際、年初来ではすでに2.184億ドル相当を売却しており、その中には過去最大となる3,588BTC(約2.16億ドル)の一括売却も含まれる。これは長年掲げてきた「ビットコインは絶対に売らない」という方針からの明確な転換だった。
ところがその直後の8月2日、Saylor氏は自社のビットコイン取得トラッカーとともに「Bitcoin Drive engaged」とだけ投稿し、市場では週明けの新規購入発表を期待する声が広がった。同氏は7月末の説明で「『絶対に売らない』方針を掲げたことは一度もない。プログラムはBTC売却を必要としておらず、長期的には引き続き純買い手であり続ける」とも述べており、売却枠の新設と購入再開シグナルは矛盾ではなく「増資による買い増しが優先で、売却は配当原資が不足した場合の最終手段」という整理だと説明している。
ファンダメンタルをどう見るか
注目すべきは、この売却枠新設が一過性の話題ではなく構造問題への対応である点だ。Strategyのこれまでの成長モデルは、株価がビットコイン保有価値に対してプレミアムで取引されている間に新株を発行し、その調達資金でビットコインを買い増すというものだった。しかしmNAVが1倍を割り込んだ現在、新株発行はむしろ既存株主にとって保有BTCを額面以下で切り売りするのと同じ意味を持ち、増資による買い増しという主要な資金調達経路が事実上機能不全に陥っている。時価総額約357億ドルに対しエンタープライズバリューは約541億ドルで、保有BTCの評価額532億ドルとほぼ拮抗する水準まで接近しており、優先株配当や利払いといった固定費をどう賄うかが現実的な経営課題として浮上している。売却枠の新設は、この構造的な資金繰りリスクに対する防衛策と見るのが妥当だろう。
資金はどこへ動いているか
目立った資金の大規模なセクターローテーションは観測されていない。AIセクターは212億ドル前後で横ばい、BTCドミナンスも56%台からほとんど動いておらず、アルトコインシーズン指数も低水準が続く。ビットコインETFについても直近は流出超が目立つ地合いで、機関マネーが積極的にリスクを取りに来ている様子は乏しい。こうした薄商いの中でStrategyという単一企業の財務動向がここまで注目されるのは、同社の保有量が843,775BTCと発行済みビットコインの4%超に相当する規模であり、その売買動向自体が需給インパクトを持ちうるためだ。仮に週明けに購入再開が発表されれば需給面ではポジティブ材料となるが、逆に売却枠が実際に行使される段階になれば、市場は「機関の代表格が売り手に回った」というシグナルとして相応に警戒するとみられる。
過去の類似局面との比較
Strategyが優先株配当のためにビットコインを売却するという動き自体は今年5月の同社決算callで一度示唆され、実際に小規模な売却が先行していた。当時は「配当原資確保のための限定的な調整」との受け止めが優勢で、市場の反応は限定的だった。しかし今回はmNAVが1倍を明確に割り込んだ状態での売却枠拡大であり、株価がビットコイン保有価値に対して割安に放置される期間が続くほど、増資による買い増しという成長モデルの前提が崩れるリスクが増す。過去、mNAVが一時的に1倍を割った局面では数週間で切り返した例もあるが、今回は50億ドルという売却枠の絶対額が大きく、単なる一時的な調整と楽観視するにはやや材料が重い。
注目銘柄と価格水準
ビットコインは6万3,000ドル前後で推移しており、Strategyの平均取得原価である約7万5,000ドル台は当面の心理的な節目として意識されやすい。この水準を回復するまでは同社の含み損状態が続くため、株式市場側ではStrategy株(MSTR)自体の値動きにも要注目だ。AI関連銘柄では、Chainlink(LINK)が8.29ドル(+1.8%)と主要トークンの中で相対的に堅調で、DTCCの案件を含むトークン化インフラでの採用拡大が下支え材料として意識され続けている。Bittensor(TAO)は190ドル前後で推移しており、8月中に見込まれるGrayscale・BitwiseのETF審査結果が次のカタリスト候補となる。BTC・ETH・LINKは国内主要取引所での取扱いがあるが、TAOやFETなど一部のAI銘柄は国内での取扱いが限定的な点には留意したい。
想定されるシナリオとリスク
上方シナリオとしては、週明けにStrategyが実際にビットコイン購入を再発表し、機関の需要が根強いことが確認されれば、心理的な支えとして相場のセンチメント改善につながり得る。一方下方シナリオとしては、mNAVディスカウントが解消しないまま売却枠の行使が現実化した場合、機関保有構造への不安が広がりビットコイン、ひいてはAIセクターを含むリスク資産全般に重しとなる可能性がある。いずれのシナリオも現時点では確定情報ではなく、今後の決算・IR発表・オンチェーンでの資金移動を継続的に確認する必要がある局面だ。
まとめ
第一に、Strategyの保有ビットコインは平均取得原価割れとなり、mNAVは0.67倍まで低下している。第二に、Q2決算での最大50億ドルの売却枠新設と、8月2日の購入再開シグナルという一見矛盾する2つの材料が同時に存在しており、同社の姿勢は「蓄積重視」から「バランスシート防衛」寄りへ変化しつつある。第三に、AIセクターや他の主要トークンへの直接の波及は今のところ限定的で、市場全体は薄商いのレンジ内にとどまっている。なお、編集部はClaude Codeによる自動売買を実運用しており、検証結果は運用実績ページとニュースレターで公開している。
